大阪地方裁判所 平成10年(ワ)7733号 判決 1999年8月31日
反訴原告
舩富敦志
反訴被告
竹﨑文彦
主文
一 反訴被告は、反訴原告に対し、金二二六万二五四二円及びこれに対する平成七年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
反訴被告は、反訴原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成七年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、反訴被告(以下、単に「被告」という。)運転の普通乗用自動車と反訴原告(以下、単に「原告」という。)運転の自動二輪車とが衝突した事故につき、原告が、被告に対し、自賠法三条に基づいて損害賠償を請求した事案である(なお、本件は、取り下げによって終了した平成一〇年(ワ)第四六二三号債務不存在確認請求事件の反訴である。)。
一 争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)
1 事故の発生
左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成七年四月八日
場所 大阪府高石市西取石七丁目一番二五号先路上(以下「本件事故現場」という。)
事故車両一 普通乗用自動車(和泉五三ひ一〇七八)(以下「被告車両」という。)
右運転者 被告
事故車両二 自動二輪車(高石市た三六二三)(以下「原告車両」という。)
右運転者 原告
態様 被告車両と原告車両とが衝突した。
2 責任原因
被告は、本件事故当時、被告車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものである。
二 争点
1 本件事故の態様(過失相殺)
(被告の主張)
本件事故は、一時停止の規制がある道路において一時停止を怠った右折の原告車両と直進の被告車両との衝突事故である。また、原告車両は、本件事故現場付近の交差点角をぎりぎりに早廻り右折したものであり、しかも衝突場所は交差点外の被告車両の進行車線(南行車線)上である。被告車両が制限速度(時速三〇キロメートル)を超えていたことは認めるが、その速度は、時速三五ないし三八キロメートル程度であり、せいぜい時速四〇キロメートルにすぎない。
したがって、原告には八割の過失がある。
(原告の主張)
本件事故は、本件事故現場付近の交差点において、原告車両が東から北へ右折した直後、南向きに進行してきた被告車両がセンターラインを越えて北行車線にはみ出し、制限速度(時速三〇キロメートル)を超える高速(時速五〇ないし六〇キロメートル)で走行してきたため、センターライン上で原告車両と被告車両の右側前部とが正面衝突したというものである。
原告と被告との過失割合は、一対九とみるべきである。
2 原告の損害
(原告の主張)
(一) 入院雑費 八万〇六〇〇円
(二) 通院交通費 六万七〇〇〇円
(三) 営業上の積極損害
(1) 新聞販売店関係 六七二万円
原告は、新聞店舗を二店舗経営していたが、本件事故のために右二店舗における新聞配達を行うことができず、原告に代わる代行の新聞配達要員二名を平成七年四月八日から同年一〇月まで雇用し、その代配の人件費として六七二万円を要した。
(2) スナック夢関係 五九万七六〇〇円
原告は、平成六年秋頃からスナック夢を経営していたが、このスナックの女子従業員につき、勤務が深夜に渡るため自動車による送迎を雇用の条件としていたことから、原告が自動車の運転ないし長時間の運転ができなくなったため、本件事故まで原告が送迎していたものを平成七年四月八日から同年九月までの間タクシーによる送迎に切り換えざるを得なかった。そのためにタクシー代として五九万七六〇〇円を要した。
(四) 営業上の消極損害
(1) 新聞販売店関係 一八九万四三一二円
原告が本件事故により約二か月間入院し、退院後も重篤な頭痛、肩こり、腰痛に悩まされたため、二店舗ともに平成七年の収益は平成六年よりも減少した。右減少額の二店舗分の合計は一八九万四三一二円である。
(2) うどん店関係 一五七二万一二一九円
原告は、平成六年七月にうどん店を開業し、本件事故直前の平成七年一月から同年三月までの三か月間で一か月平均四七万九七一五円の収益を上げていた。ところが、本件事故により、原告自らうどん汁の調合ができない等の事情により、売り上げが激減し、閉店のやむなきに追い込まれた。本件事故がなければ、すくなくとも本件事故直前においてあげていた収益をあげることは充分に考えられ、この状態は少なくとも三年は継続できたものと考えられ、本件事故に伴う右関係の消極損害は中間利息を控除して一五七二万一二一九円となる。
(計算式) 479,715×12×2.731=15,721,219
(五) 後遺障害逸失利益 三三〇万四八一二円
原告には、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫及び左座骨神経痛の後遺障害が残存している。右後遺障害は少なくとも後遺障害等級表一四級一〇号に該当するものであって、原告は、症状固定となった平成九年二月二四日以降も労働能力の五パーセントを喪失したものであり、右状態は少なくとも五年間は継続するものと考えられるので、平成七年の新聞販売店二店舗の収益を基準として計算してもその逸失利益は三三〇万四八一二円となる。
(計算式) 15,145,793×0.05×4.364=3,304,812
(六) 入通院慰謝料 一八四万円
(七) 後遺障害慰謝料 八八万一二五〇円
(八) 弁護士費用 二七九万九六一一円
よって、原告は、被告に対し、右損害合計額三三九〇万六四〇四円の内金二〇〇〇万円及びこれに対する本件事故日である平成七年四月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
争う。
原告の本件事故前年度(平成六年度)の確定申告は五一六万三六五九円にすぎないし、これとて妻らに支えられた上で得られたものであるから、原告の寄与分に限り損害算定の基礎とすべきである。
後遺障害は残存しておらず、自賠責の事前認定の結果も非該当である。
第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)
一 争点1について(本件事故の態様)
1 前記争いのない事実、証拠(甲三、五、乙五1ないし8、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
本件事故現場は、大阪府高石市西取石七丁目一番二五号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場付近では、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とが交差する交差点(以下、右の交差点を「本件交差点」という。)であり、信号機による交通整理は行われていなかった。南北道路は、片側一車線の道路であり、その制限速度時速三〇キロメートルであり、中央線は本件交差点の中にまで及んで表示されていた。南行車線の幅員は、約二・六メートル、北行車線の幅員が約二・七メートルである。本件交差点付近における南北道路・東西道路相互の見通しは、ブロック塀のために悪い状態であった。東西道路の本件交差点手前には、一時停止規制がある。
原告は、平成七年四月八日午前六時頃、新聞配達のため原告車両を運転し、東西道路を東から西に向けて走行していたが、本件交差点の東北側角にある上田明宅(新聞の投函口は、東西道路の東行車線沿いにある)に新聞を投函した後、次の配達先である上田吉一宅(本件交差点から南北道路の北行車線沿いにある)に向かうため、別紙図面<ア>点付近を経て本件交差点を右折していったところ、前方から進行してきた被告車両を発見した。同じ頃、被告は、通勤のため被告車両を運転して、南北道路の南行車線を北から南に向けて時速四〇キロメートル程度で走行中、別紙図面<2>地点付近で右折してくる原告車両(同図面<ア>地点付近)を発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、同図面<×>地点付近で被告車両と原告車両とが衝突した(右衝突時における被告車両の位置は同図面<3>地点付近、原告車両の位置は同図面<イ>地点付近である。)。被告車両は同図面<4>地点付近に停車し、原告車両は、右衝突の結果、転倒しながら同図面<ウ>地点付近まで移動して停止した。
以上のとおり認められる。原告は、衝突地点はセンターライン上であるなど右認定に反する事故態様を主張し、陳述書(乙一四)及び本人尋問においてこれに沿う供述をするが、司法警察員が本件事故の約一時間後に実施した実況見分時において南北道路の南行車線上に路面擦過痕があったと記載していること(甲三)、上田明宅と上田吉一宅との位置関係が右認定のとおりであること、本件事故後原告車両の前輪上にあるカゴが原告車両の運転席に座った位置から見て右側が後輪側に押された形でゆがんでいること(甲五)に照らし、これらの供述は直ちに措信し得ない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定の事故態様によれば、<1>被告には、進行方向には本件交差点があるのであるから、同交差点からの進入車両に備えて安全な速度で進行すべき注意義務があったにもかかわらず、制限速度を上回る速度で進行した過失があり、他方、<2>原告には、東西道路から優先道路である南北道路に右折進入するに際し、右方から進行してくる車両の動静に注意すべき義務が存したにもかかわらず、これを怠ったまま漫然と進行し(原告が一時停止を怠ったかどうかは明らかではないが、仮に一時停止をしたとしても実質的な安全確認を伴わないおざなりな停止であったと推認される。)、かついわゆる早廻り右折を行った過失があり、本件事故は両者の過失が競合して起きたものであると認められる。右両者の過失内容を比較すると、原告の損害につき、少なくとも七割の過失相殺を行うのが相当である。
二 争点二について(原告の損害)
1 治療経過等
証拠(甲二、乙八ないし一〇、一三、一五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告(昭和三二年一月二四日生、本件事故当時三八才)は、本件事故の当日である平成七年四月八日、光生病院に救急搬送されて診察を受け、CT、X―Pでは異常は認められなかったが、頸・腰部捻挫、頭部・腹部・右肘・左大腿打撲の傷病名で、歩行困難のため入院措置となった。光生病院には同月二一日まで入院し、同日から羽原病院に転医して、同年六月八日まで入院し、その後は平成九年二月二四日まで通院治療を受けた。羽原病院では、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、左坐骨神経痛の傷病名が付され、平成八年一〇月二四日時点では、両側大後頭神経痛、左坐骨神経痛が残存し、神経ブロックを受けており、徐々にではあるが軽快傾向にあった。羽原病院は、原告の住所から遠かったので、牽引等のリハビリを行うため、羽原病院から紹介してもらい、小嶋整形外科クリニックにも通院した。小嶋整形外科クリニックでは、平成七年六月八日から通院を開始し、頸部痛、頸部緊張感等を訴え、X―Pにて第四・第五頸椎の角状化が認められ、頸椎牽引及び投薬を受け、症状が改善したと判断され、平成八年二月一四日をもってリハビリを中止することになった。その後は、岡島鍼灸整骨院で針治療等を受けた。
羽原病院の香川医師は、平成九年二月二四日に原告の症状が固定した旨の後遺障害診断書を作成したが、右診断書には、傷病名として、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、左坐骨神経痛が掲げられ、両側大後頭神経痛があり、両側スパーリング徴候が陽性であり、頸椎部の右側々屈において可動域制限が認められる(左屈五〇度に対し右屈四五度)とされた。
自賠責保険会社は、自算会を通じて資料を検討した結果、原告の後遺障害は後遺障害等級表所定の後遺障害に該当しないと判断した。
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 症状固定時期、後遺障害等
前認定事実によれば、原告の症状は、平成八年二月一四日頃にはほぼ固定状態に近かったが、最終的には平成九年二月二四日に固定したと認められる。しかしながら、前認定事実によっても、原告に残存する症状が後遺障害等級表所定の後遺障害の程度に達していること及び右症状が本件事故と相当因果関係を有するものであることを認めるにはなお不十分であり、他に右の各点を認めるに足りる証拠はない。
3 損害額(過失相殺前)
(一) 入院雑費 八万〇六〇〇円
原告は、平成七年四月八日から同年六月八日までの六二日間入院し(前認定事実)、一日あたり一三〇〇円として、合計八万〇六〇〇円の入院雑費を要したと認められる。
(二) 通院交通費 六万七〇〇〇円
原告は、通院交通費として、合計六万七〇〇〇円を要したと認められる(弁論の全趣旨)。
(三) 営業上の積極損害
(1) 新聞販売店関係 四七一万四〇〇〇円
原告は、実質的に新聞店舗を二店舗(綾園・富木の各販売所)経営していたが(但し、原告は、富木販売所については母親の名義を使用している。)、本件事故のために平成七年四月八日から同年六月三〇日までは右二店舗における新聞配達を全く行うことができず、その間代行の新聞配達要員二名分の派遣料として二七〇万八〇〇〇円を要し、同年七月一日からは原告に代わる代行の新聞配達要員一名分の派遣料として二〇〇万六〇〇〇円を要したと認められる(前認定事実、乙一二1ないし7、弁論の全趣旨)。右認定以上に新聞配達要員の派遣を要したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) スナック夢関係 四一万三五四〇円
原告は、本件事故の結果、平成七年四月八日から同年一〇月までの間スナック夢の女子従業員について従前行っていた送迎を行うことができず、タクシーによる送迎に切り換えざるを得ず、タクシー代として四一万三五四〇円を要したと認められる(乙一八1、24、28、51、80、108)。
(四) 営業上の消極損害
(1) 新聞販売店関係 認められない。
原告は、原告ないし原告の妻が作成した新聞店舗収支比較表(乙七1及び2)(以下「収支比較表」という。)を元にして、新聞販売店二店舗の平成七年の収益と平成六年の収益との差額を損害として主張する。収支比較表は、原告名義で経営していた綾園販売所の平成六年の収益についてみても、確定申告書(甲四)記載の収益よりも多い額を記載しており、そもそもそれ自体の信用性に疑問を投げかけざるを得ない。仮にこの点はさておくとしても、収支比較表によれば、綾園販売所の所得は、平成六年が七三八万三六五九円、平成七年が六一一万一五七〇円と一二七万二〇八九円減少しているとされているが、その原因は経費のうち臨時代替配達料(前記(三)の新聞配達要員の派遣料がこれに該当する。)が平成六年は七五万円であるのに対し、平成七年が三三六万円と二六一万円増加したことによるところが大きい。同様に、富木販売所の所得は、平成六年が九六五万六四四六円、平成七年が九〇三万四二二三円と六二万二二二三円減少しているとされているが、その原因は経費のうち臨時代替配達料が平成六年は一一五万円であるのに対し、平成七年が三三六万円と二二一万円増加したことによるところが大きい。以上のとおり、収支比較表を前提としても、臨時代替配達料が前年並みであれば、平成七年は増収となっていたものと認められる。したがって、前記(三)で新聞配達要員の派遣料として損害を認定している以上、原告の右主張にかかる損害を認定するのは二重取りを認めることになりかねず、この点からも許されない。
(2) うどん店関係 認められない。
原告経営のうどん店に関する本件事故前における収入及び経費を示す的確な証拠はなく、原告主張の損害は認定しえない。
(五) 後遺障害逸失利益 認められない。
後遺障害については前記2のとおりであり、他に後遺障害逸失利益を認めるに足りる証拠はない。
(六) 入通院慰謝料 一六〇万円
原告の被った傷害の程度、治療経過等の事情を考慮すると、入通院慰謝料は一六〇万円が相当である。
(七) 後遺障害慰謝料 認められない。
後遺障害については前記2のとおりであり、他に後遺障害慰謝料を認めるに足りる証拠はない。
4 損害額(過失相殺後)
以上掲げた損害額の合計は六八七万五一四〇円であるところ、前記の次第で七割の過失相殺を行うと、過失相殺後の損害額は二〇六万二五四二円となる。
5 弁護士費用 二〇万円
本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき弁護士費用は二〇万円をもって相当と認める。
三 結論
以上の次第で、原告の請求は、被告に対し、金二二六万二五四二円及びこれに対する本件事故日である平成七年四月八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面